叔父の遺品の中に『それ』はあった。
それはこれ、『楽器の女王』ヴァイオリンである。
叔父の家の、使用されていなかったシンクに無造作に突っ込まれていたのだ。
私はヴァイオリンのことは良く分からないが、このような扱いからして価値ある品という訳でも無いようだ。
叔父はアンティークが趣味だったが、楽器が趣味だとは聞いたことが無い。恐らく蚤の市のような場所で二束三文で売られていたものを気まぐれで購入したのだろう。
何故なら、叔父の家には他にも1万円の値札シールの貼られたYAMAHAのギターやら古いシンセサイザーやらが置かれていたからだ。
それはさておいてこのヴァイオリン、素人目にも酷い状態だ。
まずは駒が無い、弦もべろべろとしている。
f字孔から中を覗いてみると、ラベルは貼られておらず、埃が入り込んでいる。
そして何よりも魂柱が……無い!
弓も毛が纏まりの無い髪のようになっている。
購入時に既にこの状態だったのか、この楽器をどのようにするつもりだったのか。今となっては知る術も無いが、私はこの叔父の遺品を蘇らせることに決めたのである。
まずはネットで検索したが、この『ガラクタ』を弾けるまでにするには結構な金額がかかるようだ。それならばSUZUKIの新作を購入した方が早いだろうというツッコミは無しである。それにあまり安い楽器だと修理を断られることもあるらしく不安になったが、とりあえず楽器屋さんに見てもらおうと思い、許可を得て貰って帰ることにした……ケースが見当たらず、やむなく紙袋に入れて。